佐伯一麦インタビュー「無根拠であることと『私小説』」

◇これも旧聞に属するが、いつのものでも良いものは良い。朝日新聞社PR誌『一冊の本』4月号より(副題『川筋物語』と『鉄塔家族』をめぐって」)。この人の作品は実はまだちゃんと読んだことがないけれど、「私小説」(=近代日本の小説の主流)について、実に良いことを語っているように思える。
◇断片的に引用すると「自然主義文学(=私小説の始まり←引用者注)というのは内面ばかりを描いてきたように思われているけれど、意外に風景を描いている」「『私小説』というのは自分を書くわけだけれども、自分を書くというのは逆に他人を書くということなんですね。…他人や風景によって内面が書けるというのかな、それは一つの発見でした」「僕にとっての小説は、危機にいる人間の認識の手段だということには変わりない」
◇これだけでは充分に伝わらないが、あの90年代以来アカデミズムにこだわりつづけ、2004年後半からようやく本格的に文芸に戻ってきて、いくらか小説を読んだ私にとって実に響くところがある言葉だ。「学問」へのこだわりは結局私を苦しめただけだった。今更言うと宮台真司*1フォロワーに笑われるけれど。それにしても宮台センセ自身の学問+映画・小説などの表現への取り組み方*2は凄くてやはり真似できない。

*1:http://www.miyadai.com/

*2:表現関係で書いた文章は『援交から天皇へ援交から天皇へ―COMMENTARIES:1995‐2002 (朝日文庫)絶望 断念 福音 映画絶望・断念・福音・映画―「社会」から「世界」への架け橋(オン・ザ・ブリッジ) (ダ・ヴィンチブックス)にまとめられている。