呉儀ドタキャンの背景と今次の国際情勢

◇ドタキャン理由会見(「公務とは言ってない」)について、中国国内新聞報道は、人気大衆紙新京報」「北京青年報」が詳細に記事を組んだのに対し、党機関紙「人民日報」では一切触れず。完全に国内の突き上げ対策と実際の日中関係を使い分ける。(25日毎日夕刊)中国指導部の矛盾が明らか。
◇ドタキャン理由の外交ルート返答。「公務は実際にあったが、日本側発言にも不満があった」(26日報道)こんなお粗末なウソで、こっそり日本側に「許してちょんまげ」ポーズ。中国指導部は実にだらしない。
◇中国側は、温家宝*1首相の信頼が厚く、「鉄の女」と言われて人気のある呉儀副首相が、小泉に「靖国参拝実行」を直接表明されて面子をつぶされるのを恐れて、会談をキャンセルした。中国胡錦涛指導部は小泉が「8・15」参拝を狙っていると疑い始めている。(以上、毎日論説委員金子秀敏の連載コラム「早い話が」26日夕刊を要約)私も8・15はありうると思う。
◇中国外交は失態の連続。台湾を標的にした反国家独立法で国際的に批判を受け、一連の反日デモで、欧米から「市民社会のルールを守れるのか」「北京五輪は大丈夫なのか」と不信を持たれ、歴史解釈・教科書問題では、自国の教科書がいかに隠蔽と偽りだらけか、欧米(ニューヨークタイムズ?やインディペンダント)にも報じられた。日本が今後15年で、東アジアで「中国のバンドワゴン(便乗)国家」になるのか、アメリカとの連携を生かして中国とは独自の勢力を持つ「バランス国家」になるのか。アメリカの中央情報局直属のシンクタンク報告(国家情報会議「2020年」。今年1月13日発表)にあるという。(以上、毎日論説室・高畑昭男「記者の目」27日朝刊を要約)
◇私の情報源は片寄っているが、はてな上に書かれる他の各種情報と比べて、私はこの流れで見るのが一番納得がいく(最近は大手偏向メディアや、役に立たない、局部的知識だけの(志のない)インチキ専門家が多すぎる)。超大国の負担に耐えかねるアメリカは、今のところ日本に比重をかけながら、アジア情勢を見守っている。アメリカは後から勝ち馬に乗ればいい。同じ核問題でも、いかにも危なっかしい北朝鮮はほとんど野放しで、イランの問題に標的を定めている*2
◇日本の憲法改正も、こうした国際情勢の中で議論され、各種の情報戦によって操作されている。私たちの国の行く末は、私たちがただ良心的に振る舞っても必ずしも良い方向には動かない。先に「ジャーナリスティックに騒ぎまわる」ことを奨めたが、目先の出来事に引きずられていたのでは、どこかの誰かの思う壺である。
国益追求とは、(いまだに岡田代表良識派ぶって言っているように)他国と友好関係を作ることではなく(それは民間の文化交流でするべきこと)、他国にいかに出し抜かれないようにするかという薄汚い仕事である。アメリカの大統領・連邦議会・情報機関・シンクタンクはそういうことに血道を上げているし、他国もそれに倣っている。日本は内部分裂をすることなく、反日的な中国・韓国の現政権を、歴史問題を逆手に取って揺さぶりつつ、なおかつアメリカへの過剰な従属を避けるように振る舞うべきだろう。小泉政権の外交無策が言われるが、誰がやっても一筋縄ではいかない状況ではないか。現状は、中国・韓国につけこまれにくいという点ではよいが、アメリカとの関係は微妙である。
◇詳しくは知らないが、ロシアのプーチンに近いプリコフスキーが会見で、「北方領土返還は、少なくとも我々が生きている間はない。中ロ間との国境問題とは違う」と述べたそうだ(26日報道)。おそらく、中国と連携した日本への揺さぶりだろう。私は、ロシア文化をこよなく愛する者だが、プーチン政権に不信感を持ち、心情的にはチェチェン独立を支持する。日本はモンゴルなども味方につけつつ、中ロ間を引き裂く工作でも始めてはどうか。ゲームの世界(妄想鎖国)よりも、現実世界の方がよほどスリルがある?*3

*1:ちなみに、この人は3歳の時、日本軍により、村人たちとともに銃剣を突きつけられ、母にしがみついて広場に追い立てられた記憶のある戦中派だそうだ。その時、祖父が建てた村の小学校や我が家もみな焼かれたという。今回、日本政府が招待していたのは、元は温首相だった。

*2:ちなみに、本日毎日の社説は、「イランはEUに接近して対米関係改善を計れ、孤立するな」とイランを応援。「力」はないが、大局的ではある。

*3:今更ながら、5月17日に内田樹氏のアジア−アメリカ−国内情勢論が出ていた。Archives - 内田樹の研究室。例によって読んでいなかった。はあ。(追加)その後、今回の「ドタキャン」について、こういう情報・見方もあり。http://bewaad.com/20050604.html#p02。当然表に出ないところでいろいろやり合ってるとは思う。