杵屋正邦の「風動」「第3風動」

◇また前回書いた現代邦楽の話題から(なかなかクラシックにたどりつかないが、たまたまです)。なにしろ「日本音楽の巨匠」シリーズから2枚を首尾よく(新開店後1年にして初めて行った)新宿ディスク・ユニオンで手に入れたので。この2曲が入ったCDをわざわざ買って、気前良く売ってくれた人がやはりいるんだねぇ。驚いた。それにしても、一昨日書いたばかりなのにいきなり現物を中古で見つけるとは、世の中(役には立たないが)できすぎたこともあるものだ。
◇「風動」がビクター盤「都山流尺八−山本邦山」で、演奏者が青木鈴慕・山本邦山・横山勝也。「第三風動」がキング盤「竹韻−横山勝也・尺八の世界」で、演奏者は横山勝也・古谷輝夫・真玉和司(1995年録音)。他の曲はまだ聴いていない。
◇杵屋正邦の曲は、やはり昔聞いた印象通り、邦楽的な間や掛け合いと洋楽的なリズムやアンサンブルの感覚が統合され、それでいて安手のところがない洗練されたものだった。「風動」は、ビクター盤の3人が流派(琴古流・都山流)を越えて1966年に結成した「(尺八)三本会」のために作曲されたもの。ということで、どちらも尺八三重奏曲。「第三」が1970年作曲。
◇ビクター盤の田中隆文氏、キング盤の徳丸吉彦氏・月渓恒子氏の解説を組み合わせると、諸井誠や武満徹の邦楽器使用も受けて、1960〜70年代(団塊世代の学生時代)現代邦楽ブームがあったらしい。私が個人的に多少知っている能楽にも現代能楽が盛んだった時期があり、おそらく重なるムーブメントだったのだろう。
◇演奏内容だが、「風動」は、委嘱者3人による演奏で、現代邦楽草創?の力のこもった、緊迫度の高い名演だろう。一方でトリルなど、尺八からこんなにもフルート的な音が出るのか(吹き口の構造から当然と言えば当然だが)とも思い、アルト的ブホブホ音と合わせて、その美しさに聞き惚れる(逆に、現代フルート演奏には尺八奏法の影響があるのだろうが)。山本邦山の実力のほどが窺える(他の曲も聴いてみよう)。とりあえずクラシックとして、☆4.5(満点5つ)。
◇一方、「第三風動」は、横山勝也とより若い弟子たちの演奏か。録音は邦山の方より断然優秀で、音そのものは実に綺麗に響くのだが、三本会と比べた場合には少し優しすぎて、間延びした感は否めない(もちろん一流なのだが)。私としては、曲の不穏さ(「風動」に比べてもさらにおどろおどろしいはず)をもっと強調して欲しい。ということで、☆3.5。
◇なお、この画期的シリーズの商品面では、ビクター盤は、作曲者による自作解題つきなのが嬉しいが、コンピレーションのせいか録音年表記がないのが残念。キング盤では、解説が充実、立花隆の「横山さんのこと」というエセーつき。録音日時場所記載・録音風景(スーツ姿なのね)写真・英語解説があるのも(民族音楽シリーズと同様で)面白い。ただし、曲の時間表記がないのは不便で惜しい。とはいえ、非常に価値の高いシリーズなのは間違いない。今後も予算に応じて追っかけようと思う。