福田和也「司馬史観」と闘う

福田和也の闘う時評159:論文が作品になる学者」 from『週刊新潮』(13日水曜日発売)

福田和也が右翼的言説を展開しつつも「司馬史観」に否定的なのは自明かもしれないが、その立場を示すコンパクトで新しい事例として、上記記事の要点を紹介。
◇記事は、司馬史観に正面から疑問を呈する、加藤陽子氏(福田氏と同年生まれ)の新著『戦争の論理*1を取り上げて、「学術論文を集めた書物でありながら、著者の果敢さと知的誠実がもたらすスリルに溢れていて、近代史に多少興味とも興味をもっている方なら、どなたにでもお勧めできる好著」と高く評価したもの。
◇加藤氏は、いわゆる「日露戦争の成功体験の驕り→昭和軍部の堕落」説に対して、より深い解釈を提示する。旅順での陸海共同作戦は「モルトケ以来の近代戦争のイメージを変える」事態であり、そこには大きな「パラダイム変化」があったのだが、それを現場である日本軍幹部が認識できなかった、という点に以後の軍部の急所を見る。
◇また、「統帥権の独立による軍部の暴走」説に対しては、日露戦争以後の「統帥権」は、むしろ軍政や議会に独立を毀損されていき、かえってそれによって明治国家の破綻を招いた、という議論を立てている。
◇私自身は加藤陽子氏の読者経歴としては、まだ『戦争の日本近現代史−東大式レッスン!征韓論から太平洋戦争まで*2を読みかけなだけなのだが、根本的な問題提起を行いながら、思想史に目の行き届いたとても読みやすい本なのは間違いない。パサパサした事実中心の歴史記述には辟易しているという方にお勧めできる。学芸とは本来、最高の知的成果を相当多数に(過度の負担なく)了解可能なかたちで示さなければ意味がないはず。この人は注目すべき歴史家だと言っていいだろう。

*1:戦争の論理―日露戦争から太平洋戦争まで

*2:戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)