「自民圧勝、民主惨敗」からその次へ

◇すでに多くの方が書いているように、今回の「自民党圧勝、民主党惨敗」という選挙結果は、小選挙区制度の特性から言って当然と言えば当然のもの。昨日のTV番組での街角コメントで「これじゃ2大政党じゃないよ」というのがあったが、いえいえこれこそ正に2大政党制の特徴です。「勝ち負けが実にはっきり出る=政権交代が起こりやすい」制度が小選挙区=2大政党制のはず。
民主党に心を寄せる人々の慰めになっている感があるのは、毎日新聞の集計記事*1。今回の衆院選小選挙区の有効投票総数のうち、自民党候補の得票の占める比率は47.8%、民主党候補は36.4%であったそうで、別に民主党を支持する人がどこかへ消滅したわけではない(当たり前だが)。「惨敗」とは言っても、次はまた全くの大々逆転が可能な仕組みのはずではないのか。小沢一郎政権交代のために作った小選挙区制を、かつて中選挙区制に最もこだわっていた小泉純一郎*2が最高に巧く使いこなした結果ということに過ぎない。
◇昨日の『毎日新聞』夕刊2面下の、エリス・クラウス(カリフォルニア大サンディエゴ校教授)なる方のコメント(ネット上なしか。本紙でどうぞ)は、私の前回のエントリ*3と同じ趣旨を書いている。

興味深いのは、自民党が都市部で支持を増やしたのと同時に、民主党が農村部では好調だったことだ。これは真に「国民政党」と呼べるような2大政党ができつつあることを意味する。今回、民主党が勝たなくても、将来は勝つ可能性があるということだ。

◇自民幹部は「勝ち過ぎて次の選挙が怖い」由*4。まあ、これより上はないわな。それだけでなく、要するに、プロ政治家集団「政党」がアマチュア政治勢力「大衆」のご意向に完全に振り回される時代に入ったということ。その辺り、果たして国民の方に覚悟があるのか?
◇とはいえ、私個人の勝手な実感では、今回「小泉自民党」に投票した人には、頭脳死滅型TVの「刺客」騒ぎなどには目をくれず、今回だけは、任期を切った小泉首相に郵政限定で任せると考えた有権者も多いのではないか(もちろん後継自民政権はとりあえず続くが、小泉氏は今日早速後継総裁選びの戦略に言及している)と想像する*5
◇一方、民主党の敗因は実にはっきりしている。「変化への対応が遅い」という印象をこれほどあからさまに見せつけられて、そんな組織に国民が政権を任せるはずがない。「マニフェスト選挙」で盛り上がったのはいつ? 「岡田新代表の生真面目な人柄が案外好評」なんて三流記事がメディアに出たのはいつ? 「靖国国会」なんて言われながら、国民はレッサーパンダ風太君やら東京湾の迷い鯨に夢中だったのはいつ?(対小泉以前の問題で、動物ネタに完全に負けてたよ*6。なお、自然界の出来事に民心の帰趨を見るのは、古代以来の東アジア政治思想)この間、民主党が何をしてたのか伝わったことがなんかあったか??? 小泉があれだけダイナミックに奇策を次から次へと打ち出しているのに、それをひっくり返す「知恵」も「力」も全く発揮してきていないのではないか。
グローバル化した国際情勢の中での日本社会の現状を見るに、どんなに良い「改革」を実行しても、本当にそれで社会が良くなるかなんて、政治・経済の専門家ですら分からない。その意味では、今や国政そのものが一種の危機管理になっている(カトリーナ被災でも明らかなように)。「とにかく機敏に情勢の変化に対応できる政権でなくては困る」というのが、庶民の皮膚感覚ではないか。(間違った形で北田暁大氏の口吻だけを借用すれば)これで勝てると思ってたら「ほんとにお前らアホちゃうか」ってな感じである*7(言い過ぎですか? ごめんなさい)。
◇国際的には、だいたい「9.11」総選挙でイラク撤兵を争点にする気もないのだから何をか言わんや。民主党に、その支持者に、対米関係で何か戦略はあったのか? 一方、中国との関係では、中国指導部もびっくりな結果(よりによって小泉超強力政権)ではないか。これから指導部がこの事態をどう受け止めて、またどういう戦略を繰り出して日本に絡んでくるのか、今から楽しみである(と言ってはあまりに不謹慎だろうか?)。
◇国内的には、これにて新自由主義的改革が勢いづき、ますます多国籍企業優先、国民保護切り捨てそして増税政策は進み、格差は拡大し続けるであろう*8。それを喜んで外国投資家が日本に注目し、今日も株高・円高の勢いである。しかし、そうでもしないと、つぶれかけの超大国アメリカに深くコミットし、巨大高度成長国になりつつある中国に深くコミットされつつある「日本」がそもそも持たなくなるのではないかという事を、大衆は薄々勘付いていないか。
◇ただ、もちろんそれが1920〜30年代の「もう戦争しかないよな」というどん詰まりに行き着かないことを注意しなければならないが、それは本当に日本人の「民度」次第である。なお、今回(細木数子や私のように?)小泉自民党を支持した人は、だからこそ一旦何かあれば全力でそれに抗議するという覚悟を持つべきだろう。いずれにしても、こういう時こそ「王道」を歩むより他に道はない*9
◇(また「当選誤報」のおまけつきの)『朝日新聞』を読んで、今回の選挙結果に素直に悲憤慷慨するような方は、まず一度小林よしのりの洗礼でもまじめに受けてから、それを克服する論理を持つ、力ある左翼の言葉ないし批判の言葉を紡いで欲しいと思う*10(と言っては、これまた嫌味が過ぎるだろうか?)*11

*1:http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/archive/news/2005/09/20050912dde001010022000c.html 衆院選 得票率、自民47%/民主36%なのに獲得議席4倍」

*2:【9/30補足】こちらの記事「http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/archive/news/2005/09/20050921ddm004070130000c.html『刺客』戦術大当たりした首相だが」(社会部・青島顕記者)によると、小泉氏は派閥の役割を重視し、「小選挙区比例代表制を忌み嫌って研究していた。それで制度の裏を知り尽くしていた」とされる。海部内閣時代には、小選挙区制導入の動きに対し、反対派議員連盟の代表世話人を務めた。また、坪内祐三氏が『週刊文春』連載で書いていたところでは、細川内閣での政治改革関連法(小選挙区比例代表制導入)の採決では棄権した2名の内の1人だったそうだ。「歴史の皮肉」とはこういうものかといういい見本。

*3:9.11総選挙と「その後」に向けて - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*4:http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/archive/news/2005/09/20050912dde001010021000c.html 衆院選 永田町「自民296」ショック 自民「勝ち過ぎ」/民主、ぼうぜん…」

*5:例えば、『毎日新聞』の企画連載記事「サザエさんの街から」(世田谷の10人の投票までを選挙期間中追跡した連載記事。確かに庶民の声は拾えている。)参照。「http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/archive/news/2005/09/20050912ddm041010105000c.html サザエさんの街から:05年衆院選 改革託した有権者 「郵政」のその先も」

*6:5月時点の、書き方がちと恥ずかしいこちらのエントリ参照。「岡田民主党について - ピョートル4世の<孫の手>雑評」、「続報? 今日の岡田民主党代表(おまけ)…のはずが、メディアへの怒りへ飛び火、さらに未だに「鎖国・攘夷」の日本の現状、迫る北朝鮮からの放射能漏れへと…、勝手に破綻しております(長文多謝) - ピョートル4世の<孫の手>雑評」。

*7:北田氏ご本人の政治的立場とは無関係です。念のため。なお、私めも「仲正昌樹×北田暁大トークセッション」に参加させていただきました。今まで北田氏の著作にさんざんいちゃもんをつけ、勢いが余りすぎてleleleさんにまで暴発した私は、本来報告できる義理ではありませんが。これについては、近日中に自身の総括の意味も含め別エントリを立てます。とにかく本当に勉強になり、面白い、素晴らしい会でした。こちらに簡潔な報告記事あり。「2005-09-11 - Kawakita on the Web

*8:http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/news/20050913k0000m020049000c.html 財政再建衆院選圧勝で小泉政権増税に踏み込むか」

*9:私たちの時代の「学芸」 - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*10:【3:私たちの時代の「文化戦争」】 - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*11:ちなみに、近年の政治的?言説について、先のトークセッションで、仲正・北田両氏は、そもそも左/右の2項対立図式が不毛だと強調されていた。『嫌韓流』は論外としても、左への厳しい批判として「今の左翼が絶滅しても、本当の危機には本当の左翼が出てくる」、「高橋哲哉氏の『靖国問題』は正しいことなら宣伝しても良いという発想があり、本来必ずしも大きな問題ではないものを、むしろ火に油を注いでしまっている」といった趣旨の発言があった(←私の無理解から不正確かもしれません)。私のケチな文句では表現できなかったことを見事に語っていて、さすがでした。