「太平洋戦争・ニート・小泉圧勝・中ロ印接近・下流社会」を貫くもの

◇我ながらブログというにはあまりに怠慢…なんと10月初エントリではないか! 書きたいことは沢山あるのだが、地が不勉強ゆえ書くのが追いつかない今日この頃。予告すると考えすぎてかけなくなるのも相変わらずだ。
◇この休眠中も、「歴史問題」「靖国問題」を考えているうちに、そもそも「天皇」とは何であり、何であったのか、何になるのか…と突き詰めていって、私がそんなことを考えてどうなるのかということはさておき、勉強にはなった(この幸運な読書の日々もそろそろ終わりかもしれないが…)ので、もう少ししたら書いてみたい(また予告しちゃった〜)。さて、秋の例大祭参拝があるのだろうか?
◇今回は単純に、月刊総合誌から上記の問題、当ブログで取り上げてきた国内・国際情勢に関する記事をいくつか紹介する。

「日本敗れたり−あの戦争になぜ負けたのか」(『文藝春秋』11月号)

◇豪華メンバーによる歴史座談会。3段組65ページの大ボリュームで確かに「論じ尽くす」迫力あり。すでに学殖深い方はともかく、私のように不勉強な人にはとても興味深い。
◇かの太平洋戦争(大東亜戦争)について、教科書的単純図式史観(扶桑社も大差なし)か、小林よしのりの『戦争論』か、というぐらいの人にはぜひ読んでもらいたい記事。現実の複雑さに興味を深めるには格好のもの。いかにも文春らしい*1
◇論者は以下の6人。当時の伝聞情報を多く伝え、安易な「肯定論」には慎重な半藤一利保阪正康。世界史的背景を多く指摘する中西輝政福田和也。アカデミックな視点の確かさを持つ加藤陽子*2。海軍の実状に詳しい戸高一成大和ミュージアム館長)。
◇内容はとても紹介しきれないが、「対米戦争の目的」から、当時の英米ヒトラーのドイツ、国民党中国、ソ連コミンテルンなど複雑な国際情勢、日本海軍・陸軍の問題、昭和天皇の位置、新聞などのメディア、そして戦略の不備、「特攻」の意味まで。こりゃ凄いわ。
二・二六事件日中戦争に関連した文脈で、「コミンテルンの日本軍部への工作問題(日本陸軍内部にコミンテルン分子がいたか)」が「今後の研究のおおきな大きなフロンティア」と言われる辺り、実に興味深かった。

坪内祐三「若者が小泉自民党を支持する『時代の閉塞』」(「人声天語」『文藝春秋』11月号)

◇9.11総選挙の「熱気」「お祭り気分」を的確に指摘していた*3坪内氏。石川啄木の時代よりヘビーかどうか私には分からないが、「ニートな若者」が小泉自民党を支持する状況を受け止めたエセー。

鈴木哲夫「特命チーム"情報戦"工作の全貌」(『現代』11月号)

◇その総選挙で、元NTT広報出身という世耕弘成参議院議員を責任者とした「コミュニケーション戦略チーム」がいかに今回の選挙運動を細かく演出したかのルポ。今月『現代』は「『小泉王朝』は日本をどこに導くのか」と題して、魚住昭横田由美子上杉隆の各氏が執筆。

趙宏偉「中ロ印"神聖同盟"の深謀遠慮」(『現代』11月号)

◇当ブログで取り上げ*4id:kaikajiさんも注目されていた趙氏の論考。今年6月、日本の目の前ウラジオストクで開かれていた中ロ印外相会議、8月の中ロ合同軍事演習へのインドのオブザーバー参加などに触れつつ、胡錦涛の世界戦略を描く。
江沢民の成果を継承した、「上海協力機構」と「ASEAN+1」から、胡錦涛は(一時掲げた「平和的台頭論」の言葉通り)世界戦略でさらに攻勢をかけている。インド、パキスタン、イランの上海協力機構へのオブザーバー参加、ASEANに加えて「大メコン圏(GMS)経済協力計画」で東南アジア関係を深め、インドネシアの国連安保理常任理事国入り支持、韓国・オーストラリアの台湾海峡有事不介入表明などの成果をあげた。
◇その行き着くところは、米英=アングロサクソンEU=西ユーラシアに対抗する、中ロ印=東ユーラシアの第3極を作り上げようとしているのではないか、というのが趙氏の見方である。
◇さて、日本はどうするか。趙氏は、胡錦涛は日本を一旦孤立させ、その後「入亜」に導こうとしていると見る。趙氏は小泉強力政権に、1.北方領土問題解決=ロシアとの関係修復、2.北朝鮮との国交正常化*5(今なら六本木ヒルズ2つ分の6000億円の戦後賠償で片がつくという)=韓国との関係改善、という2つのチャンスを挙げる。
◇今、このタイミングで「入亜」を考えた方がいいのかどうか。保守派を自認する私としても、これは一番悩ましい問題である。

三浦展中流から『下流』へ落ちる団塊Jr.」(『中央公論』11月号)

◇再び国内に戻って、著書の『下流社会*6が(良くも悪くも?)話題になっているマーケティング・プランナー/アナリスト三浦氏の論考。一般には「団塊ジュニア世代」は1971〜74生まれを指すが、氏はより実態に即して1973〜80生まれを「真性団塊ジュニア世代」と呼ぶ。2001年に約300万人とされた20代フリーターはこの世代に属し、団塊世代親の「自分らしさ志向」を受け継いだとする。
◇「自分らしさ派バッシング」ではない(雇用環境悪化と産業構造変化という経済的側面を見逃すつもりはない)と断りつつも、団塊ジュニア世代の「自分らしさ派」は、「非自分らしさ派」に比べて、非正規雇用・未婚率が高く、生活満足度・階層意識が低いという結果になっているのではないか、と2004年の調査結果を基に考察している。
◇それを踏まえての、日本社会の階層化の見通しはこう述べられる。

団塊世代より若い、現在子育て中の世代は、今後おそらく、団塊世代的な"自由な"子育てを踏襲する者と、団塊世代を反面教師として、子供に相応の厳しさを持って接する者に二極化するのではないかと思われる。
…フリーター、ニートの増加自体が所得格差の拡大と階層社会化を進めるだけでなく、我が子をフリーター、ニートにさせまいという親とそう思わない親への分化によって、ますます日本社会の階層化が進む可能性がある…。

◇これを単純に私立/公立学校の選択と結びつけて階層化が進むという辺りは(確かに悪性の危機感を煽るようで)私は留保したいが、価値観の「二極化」現象があることには同意。
◇時々芸のないジャーナリストもどきが細木数子に文句をつけて雑誌の誌面を埋めたりしているが、そういう記事からはもはや少数派・守旧派の侘しさすら感じてしまう。あるいは例は、美輪明宏*7でも、小林よしのりでもいい。はたまた「ジェンダーフリーバッシング」でも、「小泉自民圧勝」でもいい。
◇話が飛ぶようだが、こうした「保守化」を示す一連の(と、私は調査も何もなしに勝手に思っているが)流れはまず変えられないのではないか。この流れの実態を踏まえた上で、十分に批判的な言葉を述べる人は、私の知る限りまだいないように思う。

*1:文春新書にはすでに、坂本多加雄秦郁彦半藤一利保阪正康の『昭和史の論点昭和史の論点 (文春新書)阿川弘之猪瀬直樹中西輝政秦郁彦福田和也の『二十世紀 日本の戦争二十世紀日本の戦争 (文春新書)がある。

*2:以前紹介→「福田和也「司馬史観」と闘う - ピョートル4世の<孫の手>雑評」。

*3:【1:前口上】 - ピョートル4世の<孫の手>雑評(9.11総選挙と「その後に向けて」)」参照。

*4:弱小国「日本」における歴史問題の不毛 (中国・アメリカの外交戦略の間で) - ピョートル4世の<孫の手>雑評」参照。

*5:なお、今月は『文藝春秋』『現代』両方に田中均氏インタビュー記事あり。ついでに反朝日新聞記事も足並みが揃う(内情を詳しく知るとますますゲンナリ。旧日本軍の組織問題を思わせる、「新聞の自滅」路線まっしぐらという感じ。せめて他の新聞にはがんばってもらいたいところだが)。

*6:下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)。実はまだ読んでいないのだが、この人の本では『ファスト風土化する日本ファスト風土化する日本―郊外化とその病理 (新書y)、『検証 日本がヘンだ!−地方がファスト風土化し、液状化している!』も(Amazon上での毀誉褒貶が激しいのも含めて)興味深い検証・地方がヘンだ!―地方がファスト風土化し、液状化している! (洋泉社MOOK―シリーズStartLine)

*7:文藝春秋』には、与那原恵氏による記事「カリスマ美輪明宏かく語りき」あり。記事中で美輪氏は、軍国主義批判、長崎被爆体験を語る一方、アメリカニズム、戦後日本の精神的空洞も批判している。【11/5補足】:最近また、某週刊誌コラムで「もう細木数子は古い、これからは美輪明宏だ」的に書かれたものが本当にあって、笑えた。お粗末な「ウヨ/サヨ2分法思考」と世間に迎合する「ご都合主義」ここに極まれリ、というサヨク的ライターもどきの売文のいい見本だった。