川端龍子展(江戸東京博物館)ご紹介(&近代文化の再評価)

◇早くしないと終わってしまうので、取り急ぎ展覧会のご紹介。川端龍子(1885−1966)は、大正期から昭和40年代に活躍した日本画家。洋画からスタートして、独自に日本画に取り組んだというのが特徴。型破りの大作を次々と製作し、「近代日本画の異端者」「在野の巨人」と呼ばれたそうで、横山大観もその力量を認めていたようだ。
◇私は、以前から東京国立近代美術館の常設展示に出ている「草炎」(紺地に様々な金泥で草叢の美しさを描いた大作)の天才的筆致にホレボレしていたので、(主催に毎日新聞社が入っていて紙面で沢山PRされたこともあり)迷わず見てきたわけである。
◇ところが、この展覧会(Webページはこちら江戸東京博物館)、内容の充実度と裏腹にあんまり注目されていないような気がしないでもない。チラシも「生誕120年」と謳う一方で、コピーは「あなたはRYUSHIを知っていますか」と、ちいと控えめ。図録(とても良かったので購入)の論文のタイトルも「再評価すべきは川端龍子」という感じ。
◇これだけ凄い現物があっても、知名度と集客は比例するようで、割合空いていたし、関連グッズも少ない。これはもったいない! 普段日本画なんて見たことないと言う人こそ見て欲しい展覧会。大作(幅7メートル前後の屏風絵など)中心なので、予備知識ゼロでも視覚的に楽しめることは請け合い。
◇ちなみに思想史的には、画題としての「太平洋」(ヤップ島先住民)、「大陸」(義経ジンギスカン)や、そのものずばり戦闘機を巨大な屏風絵に仕立てた戦争画などから、1930〜40年代の時代思潮を感じる、なんて凝った見方もあり。福田和也氏も3年前の「これでいいのだ!」連載第3回(『暴論 これでいいのだ!*1)で、川端龍子らの戦争画を「凄くいい」と触れていた(今日、高田馬場BIGBOX古書感謝市で買って読んだら、たまたま見つけた)。
江戸東京博物館で12/11(日)まで開催中。来年は、茨城県天心記念五浦美術館、滋賀県立近代美術館に巡回。以上、宣伝まで。
◇それにしても戦時期の思想・芸術をようやくイデオロギー色を離れて評価できるようになったのは、慶賀すべきこと*2(また改めて、時事評論でアジア主義、クラシック短信で日本の作曲家について触れる予定)。
◇そういえば、方向性は一見逆になるが、この8〜10月に東京国立近代美術館で開催された「アジアのキュビスム」展も非常に充実していた。キュビスムなんて1910年代ヨーロッパのものかと思っていたら、1960年代ころまで、地域的には日本、中国(混乱の1920〜30年代が案外文化的には豊かだったようだ)、韓国、ヴェトナム、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、インド、スリランカに広く影響があり、豊かな文化の水脈を作り出していることに驚いた。
◇こちらの展覧会は、現在韓国の徳壽宮美術館で開催中。来年はシンガポール美術館に巡回。見れそうな方はぜひどうぞ。

*1:暴論これでいいのだ!

*2:【12/7補足】ついでに言えば、近世思想史において戦後60年来研究がほとんど進んでいない、澤庵宗澎・室鳩巣・石田梅岩あたりの思想家としての復権を図りたいところ。これは復古でも何でもなくて、日本の後期近代(今の社会)を考える上でも重要な、射程の長い思想を持った人々だと思われる。橋川文三三島由紀夫が文学として取り上げた山本常朝『葉隠』を除くと、戦時期に読まれた思想家はそれだけで研究対象とされてこなかったような気がする。