カウントダウンからA HAPPY NEW YEARへ、そして処刑・陵墓から「世間」論まで

ロマノフ家の生まれそこないたち(?)が2007年新春の日本に出現?

ピョートル4世(以下ピョ)◆明けましておめでとう! けど参った、昨日は寝入り端を起こされたよ。
ニコライ3世(以下ニコ)◎年越しに寝てたわけ?
ピョ◆小さい子どもがいるから、夜はいつでも早いんだよ。最近は、夜更かしさせる親の方が当たり前かもしれないけど*1
セルゲイ0世(以下セル)●ウチもその感覚が分かるようになったよ。
ニコ◎セルゲイさんも常人っぽくなったねー。
ピョ◆子どもが早く寝るのは大事だよ。別に「疑似科学」を持ち出す気は無いから、「早寝しないと子どもの脳の発達に悪影響が出る」なんてアーパーな主張はしないけどね。私は、単純に「寝る子は育つ」っていう蓄積された経験に信頼を置くだけ。
アレクサンドル4世(以下アレ)▼で、何で起こされたって?
ピョ◆そう、それ。生まれて初めて、なぜか近所でカウントダウン・イベントをやっていてね、その騒ぎで。どうも某商工会議所の主催らしく、出てたバンドも歌唱力はある方で、雰囲気も盛り上がっていたから、たぶんその場にいれば、楽しいイベントだったのは間違いない。ただ、行かない近隣住民にとっては結構な騒音だったよ。それで、カウントダウンの最高潮の盛り上がりのジャジャジャーンで見事に目が覚めちゃったわけ。
ニコ◎「除夜の鐘を聴く自由」を奪われてふて寝してたのにねー。
ピョ◆本当ですよ、と言いたいところだけど、今度は寝なおそうと思ったら、まだ鐘がゴンゴン鳴ってて、それはそれで気になっちゃて、確かに「煩悩の種は尽きまじ」という感じではあったけど。
ニコ◎やっぱり既存の共同体は一度徹底的に解体しないと。
ピョ◆受けとめ方はそれぞれでいいわけなんだけれど、せめて事前の告知の努力くらいは見せてもらいたかった。まあ、大晦日だってのが分かってるから、ここでくさすくらいですむわけだけど。
アレ▼そんなことか…。もっとここで話すことは他にあるはずですよ。
ピョ◆今時これに抗議するのは中島義道*2くらいかもしれないけど。「近隣の迷惑」ネタは、日本の「世間」を探求するには意義深いテーマだと思うよ。といって、確かに原理的に深めるのは難しいし、すぐにエゴイズムの指弾ごっこに転ずるから、緻密なアレクサンドルさんは嫌いだろうけど。

フセイン処刑 Hussein executed

ニコ◎新年早々こんな話題なの?
ピョ◆ちょうどチョムスキーの、アメリカをテロ国家だとする9.11前後の発言を読んでいたりしたせいかもしれないけど、このタイミングはなんだかギョッとしたね。
セル●すべて既定路線だよ。もはや「時間の問題」だったんだ。
ピョ◆以前から私が贔屓の『毎日新聞』は、今回も気合が入っていましたよ。
ニコ◎どれ。1面の論文、専門編集委員・西川恵氏の「振り回された国際社会」*3では、そもそもイラン=イラク戦争時に、「アメリカは衛星写真などの情報を、フランスは対艦ミサイルや先頭爆撃機などを提供するなど、米欧はこぞってイラクを支援した」ことが、フセインの増長につながったと責任を追及しているね。
ピョ◆毎日はしばしば切り口が独自過ぎて、他の新聞に比べると*4パッと見の構図が分かりにくい場合もあるけど、こういう歴史の怨念を拾ってくる努力は、ぜひセルゲイさんに認めてほしいところ。
アレ▼他に18万人〜数千人規模の「国家犯罪」疑惑がある中で、なぜ148人のシーア派住民殺害の「ドジャイル事件」で死刑なのか、という素朴な疑問には、「クローズアップ」記事の見出し「イラク政府 早期執行で口封じ 米『過去の蜜月』暴露恐れ」*5が答えている、というわけか。
ピョ◆今更ながら自分の無知というか、アメリカに対する見通しの甘さを恥じているところです。

陵墓開封?と「礼儀・労働・世間」論

ピョ◆年頭に当たり、こんなニュースも入ってきました。宮内庁がついに陵墓への立入り調査を容認する*6そうで。天皇と日本のルーツを明らかにするための、基礎作業の第一歩をようやく踏み出せるかも知れない。
ニコ◎確かに大きな出来事だけど、「ルーズな管理であすカビ人」(変換ミスにあらず)*7なんてことがあっただけに素直に喜べない。高松塚は文化庁所轄か。
セル●かえってああいう事態があったからこそ、高い見地からのご判断があったのかもしれないね。
ピョ◆ところで話は変わりますが、年末年始は挨拶とか礼儀を意識させられますね。私はそういうのが昔から苦手なんだけど。世間の人の振舞いは実に細心で、配慮が行き届いていて、びっくりしてしまう。
ニコ◎社会人の常識だろ、そんなのは。
アレ▼確かに面倒なのは認めるよ。若い人はもうそんなこと気にしないし。
ピョ◆でも、年寄りが言う「気遣いを形に顕す」のが当たり前だという話は、考えさせられますね。ただ、内面で思っているだけでは世間的に何の意味も無い。恩義を感じているなら、実際にお礼の品を手配して、相手に渡してようやくそれとして認められるという。かえって様式化された「お歳暮」なんて、機械的に送られるだけだけど(デパートでも相当システム化されてますね、あれ)、日常の折り目にふっとモノを渡されると、やはり心が動いちゃうなー。
ニコ◎何もらったんだよ。ワイロか?
セル●日本の世間について言われた、「勤勉さ」とか「労働の質の高さ」とかいうものは、そういう配慮の濃やかさに支えられていたとは言えるかもしれない。ある意味高コストではあるが、例えば商売や仕事でも、自分で気づかないような小さなミスこそ信用に響きかねない、日本社会は流動性の低さをベースにした社会だった。定常的な関係の中では、案外小さなことこそ取り返しがつかなかったりするからね。仕事への細心の注意や真剣さというのも、共同体的な濃密な人間関係の中で、繊細でしかも実効的なコミュニケーションの遣り取りを繰り返すことで動機づけられてきた面があるだろう。一方では、紛れもなく談合文化の温床だけど。
アレ▼この2000年代に、過去の日本文化論を蒸し返す必要はあるんでしょうかね。
ピョ◆そこは、私にはこだわりがあるところで。結局、近世日本の評価に関わるかもしれない。例えば、先ほどの陵墓の話から出てくる古代史の話題やあるいは「日本人」が神仏の信仰に熱心だった中世史は、まだフセイン処刑みたいな荒々しさに通じるものがあるけれど、近世というか、江戸時代から後の日本ではやはりそれはかなり異質なものとして感じられる。こういう特殊性が仮にあるとして、それが(最近は流行らないけれど)単に「鎖国」による否定的なものなのか、それとも独自な存在意義を持ちうるものなのかどうか。また、そういうものが、現代日本に連続しているのか、いないのか。90年代の心理的どん底を経験して、現に2000年代の貧困の露出に直面して悠長だと言われるかもしれないが、私はずっとそこのところが気にかかっている。それこそ「天皇制」の問題にしても、「世間」論(古くは日本文化論)と接合する必要があるんじゃないかと思うんです。
アレ▼君の言う「江戸時代」とか「世間」とかが妙に実体化されているけど、それそのものが80年代のサブカルチャー的想像力の産物じゃないと言えるんだろうか。私にはそれが疑問だ。
ピョ◆うーん、なんだか「否定神学」批判と言い、なんだか「決定的」な線を引くことで、最初から議論を封じ込められているように感じてしまうのは、気のせいでしょうか。
ニコ◎まあ、それについてはまたおいおい議論すればいいだろう。さて、おめでたいところで初日の出を拝んでおこうか。
ピョ◆そういうことで、年賀状くれた方には、出しておらずすみません、と先に謝っておきますね。

*1:ちょうどいい例が。「http://www.asahi.com/culture/update/1231/014.html 」「産経ニュース」。紅白で裸に見えかねない(?)演出、22時20分ごろ放送、直後から「裸ではないのか」(朝日による)「ボディースーツとはいえ、子どもの見ている時間にはふさわしくない」(朝日・産経による)「ふざけすぎ」(産経による)などの指摘があったという。もちろんウチは寝ていたので見ていないが(産経の方にちゃんと写真が出ていて親切)。小さい子どもはおっぱいとかおちんちんとか恥ずかしいのは大好きだから、現代日本にも思春期管理の厳格なコミュニティーがどっかにあるわけだね、きっと。

*2:新刊『醜い日本の私』醜い日本の私 (新潮選書)。中島氏のこの路線はもう分かったという方は、ぜひ角川書店PR誌『本の旅人』(「http://www.kadokawa.co.jp/mag/tabibito/index.html」目次のみ)連載の「孤独な少年の部屋」を。例の毒づきの背後にある、少年の瑞々しい感性と昭和30年代の情景が浮かび上がって注目。

*3:http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20061231k0000m030070000c.html

*4:現在のアメリカの「イラク高等法廷」への関与の問題点(法律家参加・資金提供。一方で、アメリカは国際刑事裁判所ICC)非署名。国連、ヒューマンライツ・ウォッチ、アムネスティからの批判。など)は、とりあえずメジャー紙では、「http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061230it12.htm」、「産経ニュース」が分かりやすい。一方、こんな事典みたいな不思議記事もありますが。「産経ニュース」。スターリンヒトラーチャウシェスクピノチェト、ミロシェヴィチと比較? なお、各紙社説については、こちらにリンクあり「真相解明が永遠に封印されたのは「彼の死」のせいではない - 木走日記」。

*5:http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20061231ddm003030071000c.html」、「http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20061231ddm002030040000c.html

*6:http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20070101i102.htm

*7:毎日新聞』1面「余録」欄大晦日恒例の「06年いろはカルタ」より。