【1:ポスト小泉時代の小康の中で―隠れた「大状況」】

◇今回の7/29参議院選挙は、多くの有権者の関心の高さ*1とは裏腹に、日本を取り巻く「大状況」を語りにくい選挙という印象をぬぐいさることができない。
◇2005.9.11総選挙に臨んでは、私も―というか、私なぞが―「私たちの時代の『文化戦争』」*2なる一文を草して、1970年代以降のアメリカ覇権の衰退から、その巻き返しとしてのグローバリズム、それを受けた日本での葛藤としての「文化戦争」などを一気にたどるという威勢のよさを示していた。しかし、今回の選挙での争点については1ヵ月近く前から書き始めたものの、どうしてもまとまった見解を得るにいたらない状態が続いた。
◇その理由としては、「小泉時代」と現時点とのいくつかの情勢変化によると考えられる。まず、経済では、2000年代前半の危機も去って、実感は薄いとはいえ好景気が持続している。就職は売り手市場で、根本的に問題が解消されたわけでは全くないだろうが、引きこもり、ニート、フリーター、ワーキングプア、格差…と論じられてきた一連の問題系の議論は、瞬く間に退潮してしまった。
◇また、国際情勢も一応の安定を見ている。「米下院外交委員会の慰安婦問題決議」をめぐる安倍首相の対応の拙劣さについて、内田樹先生が触れている*3が、小泉時代の日本などの国連安保理常任理事国入り運動とそれに対抗した「反日攻勢」の緊迫感からすれば、状況そのものが色褪せて見える。
◇「人権」を掲げられると、「歴史」問題(特に「戦争責任」問題)がやっかいだという状況は確かに続いているが、温家宝首相の国会演説に象徴される対中関係改善(日本側の対中国政府不信もやや和らいだか)の中ではそれほど危機的とは感じられず、そのこと自体やはり「歴史」問題そのものの政治性を語っている。
◇ついでに言えば、最近の食品・玩具などの安全性や労務環境をめぐる報道で、「やはり発展途上国だった中国」の姿が白日の下にさらされたことも、日本人の反中感情をかえって和らげる要因になっているのではないかと想像する。

*1:http://www.47news.jp/CN/200707/CN2007071601000408.html」。共同通信社の7/14、15の全国電世論調査で、参院選に「関心が大いに/少しは関心がある」が84.5%。1週前より6.3ポイント増。2004年参院選2週間前は71.0%という。

*2:【3:私たちの時代の「文化戦争」】 - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*3:リベラシオンの安倍晋三評価 - 内田樹の研究室