【4:参議院の位置づけ問題】

年金問題対応への不信感に火がついてから、久間章生防衛大臣「原爆容認」発言への非難の嵐と辞任劇、赤城徳彦農林大臣の事務所費疑惑、消費税率上げの争点化など、安倍内閣には「逆風」が吹き付けた。すでに公示前の時点で、6/30、7/1の世論調査では、安倍内閣は支持よりも不支持が20ポイント上回る状況となり、与党過半数割れは不可避で、関心は自民党が「小負け」「中負け」「大負け」のどれに着地するかだと言われていた*1
◇今回の選挙で、安倍首相は勝敗ラインを示すことを拒んでいるが、竹中治堅氏がすでに4月発表の論文*2 で指摘していたように、首相の退陣ラインを、1989年宇野宗佑の36、1998年の橋本龍太郎の44が退陣、2004年の小泉純一郎の49が続投だったという過去の参議院選挙が引かれることが多い。
◇やや話は逸れるが、そもそも今回の参議院選挙でのこの「激突」感は何なのだろうか。議院内閣制の趣旨から言えば、衆議院とは異なり、「参議院選挙は政権選択の選挙ではない」というのが本来の姿である。
◇このあたりの事情については、『中央公論8月号』*3飯尾潤橋本五郎対談「参議院の歪みが政治の停滞を招く」で詳しく指摘されている。先の竹中論文と合わせて、いくつかの指摘を抜き出すと以下のようになる。
◇1989年以降の参議院選挙の結果により、自民党は連立政権を組まざるを得ない状態が続いている。しかし、参議院で野党が過半数を占めたとしても、それを梃子に衆議院でも逆転を起こさなければ、政権交代は起こらない。
政権交代がない中で野党が存在感を示そうとすれば、衆議院を通過した法案を否決できるが、それでは野党は単なる抵抗勢力になってしまい批判にさらされる。逆に、与党が対立を避け、無難な法案で参院通過を図れば、野党は単に与党に妥協するだけの存在になってしまう。
◇そういう状況の中で、実はかえって与党の参院勢力が、首相の権力を実質的に制限する難敵になってしまう。日本国憲法が与えた、強過ぎる参議院の権限が、2001年体制の首相の主導性を弱めてしまっている。
参議院は本来、議員が6年の任期を全うできる存在であり、長期的課題を検討するための「良識の府」とされているが、実際には半数ごとの改選が事実上、政権選択の機会(しかし、実際にはすぐに政権交代が起こるわけではないから、結局はガス抜きに終わる)になってしまい、(正に今回の安倍内閣への逆風選挙のように)選挙が多すぎて、すべての政策が選挙向けの目先のPRに堕してしまうという根本的な問題がある。
◇このように、今回の選挙以前の問題として、参議院の位置づけをどう設計しなおすかという問題がある。飯尾氏は、参議院衆議院とは別の分野の権限を与えることを提案している。行政監視機能の強化(例えば、社会保険庁の問題を発見できるような)、憲法改正の発議権や最高裁判事または長官の任命権を参議院に与えることなどが示されている*4
◇私は以前、ワンパターンな「参議院選挙の一票の格差」報道に対して、そもそも参議院議員には、衆議院とは違う地方代表という意味を持たせて、例えば機械的に各県2名の議員定数を割り当てたらどうか、ということを書いた*5
◇確かにテクニカルな問題かもしれないが、そうした議論が表に出ないのは政治状況としては寂しい限りで、実に選挙の盛り上がりとは裏腹である*6

*1:例えば、歳川隆雄「参院選後の政局を読む」(7/9発売の『週刊東洋経済』「FOCUS政治」欄)。

*2:『中央公論』5月号掲載の「<「負ければ退陣、勝てば本格政権」論の幻>安倍首相と参院選パラドックス中央公論 2007年 05月号 [雑誌]

*3:中央公論 2007年 08月号 [雑誌]

*4:やや別の観点を含むが、村上正邦氏の見解が「http://www.miyadai.com/index.php?itemid=526」に出ている。

*5:「紋切り型ニュース」の馬鹿馬鹿しさ(「履修不足」と「参院1票の格差」を事例として) - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*6:また、雪斎こと櫻田淳氏は、今回の選挙を受けて与党が参議院選挙の選挙制度改革を行う可能性について触れている。あまりに強硬策過ぎるとは思うが。「梅雨時の三題・続: 雪斎の随想録