【1:「大敗でも続投」こそ「2001年型首相」の取るべき道―「中間選挙」としての参院選】

◇7/22『毎日新聞』の「自民党30〜40、公明党8〜13」の獲得議席推計を見て、「まさかここまではないだろう、どうしちゃったんだ毎日は」と思ったのだが、結果はその枠内にきちんと収まっていた。何が起こったのか。そして、それでも安倍晋三首相は続投する。最初から予想されていたことである。なぜなのか。
◇結局、現在も「小泉セオリー」は生きている。その1:「衆議院で2/3の多数を占めてさえいれば、首相の権力に揺るぎはない」。その2:「自民党をぶっ壊す」。さて、どういうことか。
◇まず、なぜ続投なのか。「参議院が政権選択の選挙ではない」のは、首相周辺の単なる責任逃れの言でなく、制度的には基本中の基本。首相指名では衆議院の議決が優先し、法的効力を持つ内閣への「不信任決議」も衆議院だけのもの。したがって、衆議院で多数を占める安倍政権が存続するのは、制度上は全く問題ない。
◇では、「責任ライン」の例として言及されていた、宇野宗佑橋本龍太郎退陣*1とは何が違うのか。宇野・橋本退陣は、派閥が中心となって総理の首を挿げ替えることで、自民党自体の勢力回復を図るために行なわれている。
◇今回も、党内からの続投異論が谷垣派から出たが、すぐに収まった(谷垣禎一自身にここで前に出る覚悟がなかったようだ)。なぜなら、今回の参議院選挙大敗は、89年、98年の例よりもずっと決定的な「大敗」だからである。
◇これまでの参議院での自民党大敗は、そうは言っても他党との協力関係(89年の「自公民路線」)・連立政権(98年の「自自公連立」)を組めば、過半数を取り戻せる可能性があった。しかし、今回は前回2004年選挙で敗北した民主党に再度、しかも圧倒的に敗れており、非改選を合わせた参議院での議席総数は、自民党結党以来最低となった。これでは、公明党との連立が存続していても、参議院での議席数を逆転することができない*2
◇こうした状況では、自民党内の各派閥が「安倍おろし」を行なうことのメリットは何もない。むしろそういうやり方は旧来の「派閥の論理」に従ったと批判的に見られる可能性もある。単にめぼしい後継がいないからというものではない*3
◇一方、2001年体制下の首相は権限が強化されているという事情もあり、本人が辞める意思がないのに、それを周囲から引きずりおろすのは難しい。政治制度的に、内閣総理大臣(=党総裁)の権限が強化され、派閥が弱体化しているのだから、辞任しないのは当然といえば当然なのである(だから、麻生太郎森喜朗の外遊予定も開票前の(出口調査結果が内々に出る)段階からキャンセルされないことが明らかにされた)。
◇もっとも、『毎日新聞*4によれば、投票日夕方、グランドプリンスホテル赤坂の一室での森喜朗青木幹雄中川秀直会談では、福田康夫暫定(選挙管理)内閣構想が出たらしい。しかし、これが現実化していたら、まさに2000年以前の自民党に戻っただけだったろう。
◇以上のように考えれば、むしろ「ここで安倍首相に辞めてもらっては困る」とさえ言えるのである。今後、参議院選挙については、「中間選挙*5代わりの国民の意見表明機会となり、それを受けて政権運営が軌道修正される。そして、次の総選挙で本格的に政権選択が行なわれる。そうした筋道が定着するのが、日本政治にとって好ましいのではないだろうか。1970〜90年代の政治混迷期に見られたような、「派閥順送り政権」とか、「首の挿げ替え(党内論理)短命政権」が続くより、その方がよほど政治状況が安定するはずである。
◇ただ、前エントリ*6でも書いたように、人事で失敗を繰り返してきた安倍首相が、この大敗後の最大にしてほとんど唯一の政権浮揚策が内閣改造・党役員人事というのは皮肉である*7。ここで脱皮できるかが、政権存続の分かれ目となる。
◇今回、ANNの出口調査*8では、安倍首相に「続けて欲しい」38.3%、「他の人に代わってほしい」61.7%だったということで、不支持は相当に大きいが、例えば森政権末期のようには支持率は底割れしていない。
◇また、参院津島派(旧竹下派)が議席を激減させた一方で、安倍親衛隊的なメンバー(中山恭子山本一太世耕弘成)が支持を集めたことから、安倍周辺は本気で「改革の基本路線が否定されたわけではない」と思っているらしい。
◇しかし、選挙後も早速、与党内の圧力に屈して、実に中途半端に赤城徳彦農林大臣を「尻尾切り」して、さらに10%近い支持を失ったようである*9
◇8月末に前倒しされたという、内閣改造・党役員人事の結果次第で、安倍政権の今後が決まる。はっきり言って、いくら時間をかけても「身体検査」がうまくいく見込みは薄い。安倍首相の国民多数の意識とややズレたままの「改革」姿勢が実を結ぶのかどうか。正に、正念場と言わなくてはならない。

*1:前のエントリの「【4:参議院の位置づけ問題】 - ピョートル4世の<孫の手>雑評」では、以下のように書いた。「◇今回の選挙で、安倍首相は勝敗ラインを示すことを拒んでいるが、竹中治堅氏がすでに4月発表の論文で指摘していたように、首相の退陣ラインを、1989年宇野宗佑の36、1998年の橋本龍太郎の44が退陣、2004年の小泉純一郎の49が続投だったという過去の参議院選挙が引かれることが多い。」

*2:この辺りの解説は、「http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20070730k0000e010017000c.html」参照。

*3:朝日新聞東京新聞には、私の期待どおりに、俗情におもねる典型的な、お約束ガス抜き記事が掲載されていたようだ。「首相続投『なんで?』 『後継不在』、容認の声も」(「http://www.asahi.com/politics/update/0730/TKY200707300235.html」)。「参院選 一夜明け 惨敗でも鎮座 首相、民意は?」(「http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007073002037216.html」)。

*4:http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070804k0000m010148000c.html

*5:http://www.science-news.net/jabc/display.php?id=11844

*6:【3:安倍政権の混迷―その心理と論理】 - ピョートル4世の<孫の手>雑評

*7:この点、桜田淳氏も繰り返し指摘している。「負けに不思議の負けなし。: 雪斎の随想録」、「選挙特需: 雪斎の随想録」。

*8:選挙ステーション2017│テレビ朝日~選挙が分かりやすくなる動画を続々配信中!

*9:FNN世論調査http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070803-00000068-san-pol」。「内閣支持率22% FNN世論調査 | Internet Zone::WordPressでBlog生活」に引用されている。