【1】 渡邉暁雄のグリーグと日本の管弦楽作品

◇渡邉は、「日本の」という限定を付けるのが馬鹿らしいほどの最上級の指揮者であることを、以下縷説するが、今回、渡邉暁雄の演奏にどのように入り込んでいったかというところから書いておきたい。それは、かなり変わったアプローチだった。

グリーグペール・ギュント組曲〜朝

◇まず、最初にきちんと聴いた盤が、なんと、以前、家人が子どものために図書館で借りてきた、ミッフィーちゃんの図柄のこのCD「はじめてのクラシック〜おもちゃの交響曲〜」はじめてのクラシック~おもちゃの交響曲~。今となっては貴重な音源なのだが、ここに1曲だけ、渡邉暁雄指揮のグリーグペール・ギュント組曲〜「朝」が(なぜか)収録されている。この小品が、(ルロイ・アンダーソンなどに挟まれながら)まるでワーグナーのように壮大に響く。むむむ、と思ったところが渡邉の演奏だったので、「シベリウス=北欧」の連想もあって強く印象に残った。

現代日本管弦楽」(矢代・入野・黛ほか+三善・武満)

◇そして、この3月、久しぶりに行ったタワーレコードで、またやってくれました! 渡邉暁雄指揮日本フィルハーモニー交響楽団の「現代日本管弦楽(NCS610~611)(http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1758482&GOODS_SORT_CD=102)を手に入れた。
◇話が大幅に逸れるが、日本の作曲家の作品は、その昔、NHK−FMやBSの限られた機会で苦労して聴いたものだが(90年代までは、CDは1枚3,000円以上の国内盤がほとんどで、ディスク・ユニオンの中古でも軒並み1,800円以上だったので、なかなか手が出なかった。)、近年、ナクソスの「日本作曲家撰輯」を突破口に、デンオンの「クレスト1000」、タワーレコードのフォンテック旧譜1,490円セール、ユニヴァーサル、BMG、ビクターなど各社の音源をタワーレコードが復活させた企画盤シリーズ(カメラータも1,000円盤を出した)で、ようやく日本の作曲家の作品を他の諸国の作曲家並みに手ごろな値段で手にすることができるようになった(考えてみれば、やはりおかしな話だ。霞ヶ関自民党結合並みだ。ナクソスデンオンタワレコに感謝深甚)。
◇それでその、話を戻すと、この2枚組みCDの開始劈頭、矢代秋雄の「交響曲」(1958)の前奏の弦による不思議な音型の豊かな響きに一瞬耳を疑った。この曲は、すでにナクソス湯浅卓雄盤で聴いていたが、その時は、それほどの感銘は受けなかった。それとは、全く響きが違う。全曲、何たる豊かさか。1枚目に続いて収録されている、入野義朗「シンフォニア」(1959)といい、黛敏郎「弦楽のためのエッセイ」(1963)といい、このCDはどれをとっても名曲名演。
◇さらに、同じシリーズの既出盤に、三善晃「交響三章」(1960)武満徹「樹の曲」(1961)が収録されており、この時期の日本の作曲の完成度の高さに驚嘆する。そもそもこれらの作品は、日フィルが1958年に始めた作曲家への委嘱作品シリーズである。この「日フィル・シリーズ」は、「少なくとも6ヵ月の作曲期間と、その期間中の基本生活を保証する作曲料を提供して」委嘱する当時画期的なものであり、その歴代の受賞作9曲を、1981年の楽団創立25周年記特別演奏会で演奏したものを収録したのが、上記のCDだったわけである。
◇なお、これと同時に出ていた山岡重信(山岡重信 - Wikipedia)指揮読売日本交響楽団の「戦前日本の管弦楽(NCS608~609)(http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1758481&GOODS_SORT_CD=102)も非常に良い演奏だった。こちらは何と言っても、日本最高のシンフォニスト諸井三郎の「交響曲第2番」(1937〜38)が聴けるのがありがたい(第3番がナクソスで聴ける)。その他、山田耕筰の音詩「曼荼羅の華」(1913)深井史郎の「パロディ的な4楽章」(1933/36)なども他の演奏と比べて非常に優れている。山岡の指揮では、チェリスト安田健一郎・新交響楽団と組んだ、芥川也寸志の「チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート」(1969)の演奏が、外山雄三指揮、堤剛チェロ、NHK交響楽団の演奏よりも圧倒的に優れていたのを思い出した。しかし、この山岡氏、近年はもっぱらアマチュア・オーケストラを振っている*1ようで、何だかやるせない気持ちになった(それはそれで幸せかもしれないが)。

*1:2002〜2004年の豊島区管弦楽団の演奏会の貴重な記録(マーラー交響曲第5番の90分!の大演奏についてなど)が読める。「山岡重信」「http://rede200402.hp.infoseek.co.jp/dai2/dai30.html