【2】 渡邉暁雄のシベリウス、ラフマニノフ、ラヴェル、マーラー

シベリウス交響曲第1・4・7番(TDKコア)・第2番(EMIアポクリファ

◇さて、ここまで聴いた私は慌てた。そ、そ、そういえば、上記CDを買ったタワレコで、ちょうど1枚1,050円のスペシャル・プライスで渡邉暁雄指揮ヘルシンキ・フィルのシベリウス交響曲第1番(TDK-OC012 交響曲第1番、悲しきワルツ 渡辺暁雄&ヘルシンキ・フィル(1982年ライヴ) : シベリウス(1865-1957) | HMV&BOOKS online - TDKOC012)と第4・7番(TDK-OC013 交響曲第4番、第7番 渡辺暁雄&ヘルシンキ・フィル(1982年ライヴ) : シベリウス(1865-1957) | HMV&BOOKS online - TDKOC013)のCDを売っていたではないか! この機会に買い逃してなるものか、と猛然と後日再びタワレコへ(これは、TDKオリジナルコンサートのライブCDが大幅にプライスダウン | 六条亭の東屋に記載されたような事情で、しばらく販売しているようなので、そこまで慌てる必要はなかったわけだが)。ここでさらにラッキーなことに、2004年に山野楽器・タワレコ新星堂の共同企画で出た、京都市交響楽団との交響曲第2番(CAPO-2010)(山野楽器:CD・楽器オンライン通販サイトとCD・楽器ショップ情報の山野楽器[CD・DVD・楽器・音楽教室]でも扱っている)も発見した。
◇この中で、まず第1番の雄大な演奏に痺れた。このヘルシンキ・フィルとのライブ録音は、1982年に福岡で行なわれた演奏会のもので、残りの曲はオッコ・カムが振っている(それも今回販売されている)。ちなみに、渡邉の母親はフィンランド人なので、第1番の余白に少しだけ収録されているリハーサルでもフィンランド語で指示している(もっともこの演奏の見事さからすれば、そんな背景は些事に過ぎないが)。
◇第4番・第7番は、シベリウスの中でも超激シブ作品なので、演奏が凄いのは何となく分かるが、このときはまだピンと来なかった。
◇第2番は、1972年収録。さすがに多少オケの弱さを感じるが、逆にそれをここまで巨大なスケールで鳴らしているのは凄いと思わせる演奏だった。
◇ちなみに、渡邉が振った演奏はどれもデュナーミク(強弱)の振幅の大きさに魅力があるため、聴く際には最弱の低音でもはっきり再生できる程度の音響機器(ヘッドホンならAKGのK414P*1以上、ステレオならある程度まともなもの。私はONKYOのごく小さい奴だが)を用意することをお勧めする。そうしないと、これらの演奏の真価は伝わらないであろう。
渡邉はとにかく、オーケストラから実に美しい音を引き出す術を知った指揮者である。そして、その音を、楽譜に記された音楽を完全に再現することに用いることができる指揮者である。

田中希代子とのラフマニノフ、ラヴェル(キング)*2

◇さて、こうなると止まらない。特別大出費を覚悟して渡邉暁雄指揮で手に入る音盤を買い漁る。とはいえ、20年近くクラシック音楽を聴いてきて、これだけ一人の指揮者にのめりこんだのはそうはない。次に、ネット上でこの盤(KICC652)の試聴ができて(ピアノ協奏曲第2番、他 田中希代子(p)渡邊暁雄&日本フィル : ラフマニノフ (1873-1943) | HMV&BOOKS online - KICC-652)、また驚嘆する。
田中希代子は2004年にこの本が出て、話題になった*3。36歳で膠原病となり、以後ピアノを弾くことはできなかった。ということで、世間の関心を引いたわけだが、これまた実際に聴ける演奏の物凄さからすれば、背景は脇に追いやられる(しかし、そのお陰で50〜60年代の渡邉・日フィルの演奏が聴けたわけだ)。
◇さて、演奏では特に、ラフマニノフのピアノが鳴ること、鳴ること。リヒテルよりもずっと鳴っている。録音のせいもあるかもしれないが、あまりに隅々まで鳴り過ぎて、オケのヴァイオリンなんて、いたの? というくらいの存在感しか感じられない。さらに、第1楽章は相当速い。しかも、音楽はどこまでも流麗に進行する。凄い。玄人はだしのピアニストである家人も、「女でここまで弾いたら、体は壊すわね」と驚きながら絶賛していた。さすがに、ここでは田中の巨大さが際立っているが、渡邉の指揮も田中の激演にぴったり添った見事なもの。
◇もう1曲のラヴェルでは、創立3年後の日フィルはまだ少々弱いが、十分魅力的な演奏。田中もここでは流暢で闊達なピアニズムを聴かせる。
◇もう1枚(デンオンCOCQ-83614)、こちらも近年話題になった原智恵子の伴奏も渡邉だった。これはまだ買っていないが、こちらも試聴できる(原 智恵子〜伝説のピアニスト〜ショパン:ピアノ協奏曲第1番、ドビュッシー:子供の領分、ショパン:スケルツォ第2番 : ショパン (1810-1849) | HMV&BOOKS online - COCQ-83614)。このショパンドビュッシーがまた実によく鳴っている。日本にはどれだけ凄いピアニストがいたんだ。またぞろ驚嘆。1930〜60年代の日本の芸術の絶頂期に、「日本の批評家」どもは一体何を聴いていたのであろうか。節穴もいいところだ。

マーラー:交響曲第2番「復活」(TOKYO FM)

◇さて、再び渡邉が主役(オケは日フィル)のこの盤(TFMC-0013/0014)。マーラー交響曲第2番は、長大な終楽章に合唱とソプラノとアルトのソロが入る辺り、どの演奏でもある程度感銘深い名曲である。私のライブラリでもバルビローリ、テンシュテット、ケンペなど巨大な感動をもたらす名盤がひしめいている。しかし、この1978年の日フィルとのライブはそれらに全く引けを取らない完成度。どこをとっても隙はなく、スケールの巨大さは圧倒的で、特に終楽章は感涙を禁じえない。

Was entstanden ist,das muss vergehen! この世に生まれ出たものは、消え去る!
Was vergangen,auferstehen! そして、消え去ったものは、甦る!

こうした歌詞と合わせて、この上なくスケールの大きな音の力感、誠に繊細な美感、深みのある荘厳さ、優美な情感に満ちた曲の流れに吸い込まれるようで、忘我の境地に達する。奇を衒ったところの全くない王道を行く演奏であり、終演後の聴衆の熱狂的な反応も当然だろう。
◇これも2004年発売だったので、手に入りにくくなるのではと恐れて、急ぎ買い求めた次第。私が、仕事が大変で一番音楽を聴けていなかった時期にこうしたリリースが続いていたわけだが、とにかく聴けてよかった。が、しかし、何とか渡邉の他のマーラーも聴きたいものだ(特に、日本初演というクック版第10番。私は、もともとマーラーではこの第10番が最高峰だと思っているくらいで)。

*1:AKG 密閉型オンイヤーヘッドホン K414P【国内正規品】

*2:ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

*3:田中希代子―夜明けのピアニスト