【4】 最上級指揮者の条件と世界の指揮者勝手番付
魅力的な指揮者の特質
◇渡邉のシベリウスやマーラーを聴いて受けた衝撃と充実感は、例えばバルビローリのマーラー、ケンペのブラームス、マルティノンのサン=サーンス、コンドラシンのラヴェルなどを聴いた際の衝撃・充実感と全く同質であった。出谷啓氏が京都市響のシベリウス第2番(EMIアポクリファ)の解説(1973年)に記したように、渡邉は「完璧に楽譜をひびかせる力」を持った指揮者であり、「指揮者としてもっとも合理的なメチエの確かさを尊重するタイプの音楽家である。名をとるよりは実をとる。根っからの交響曲指揮者」である。
◇この記述にほぼすべてが語られているが、多少蛇足を加える。私が、指揮者(つまり交響曲や管弦楽曲の演奏)に求めるものは、強いて挙げれば以下の3点である。
1.オーケストラの自然な響きを活かした鳴らせ方(弦は弦らしく、管は管らしく、打は打らしく、つまりそれぞれの素材からくる息遣いが聞こえるような鳴り方が好ましい)
2.暖かい人間性を真底に感じさせる表現(それを可能にする透徹した、個人の制約性を離れた解釈)
3.伝わってくる感動の巨大さ(それを可能にするコスミックなスケールの表現)
上記の、私が「最上級」と認識する指揮者たちの演奏はいずれもこの条件を満たしている。
◇私が好むこれらの演奏は1960年代のステレオ初期から1980年ころまでに集中している。近年のリマスタリング技術の向上でアナログ時代のステレオ録音の本領が発揮されたせいもあるだろう。
世界の指揮者勝手番付
◇さて、それでは、私の中で渡邉の位置づけがどれだけ大きなものになったかを記述するために、私が録音中心に聴いてきた指揮者たち(ある程度の数の音盤を聴けた指揮者に限る)を、完全に私の好み(音盤に対する入れ食い度)だけで配列すると、以下のようになる。
ランク | (タイプ) | 独墺系 | 英仏系 | ロシア系 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
最上級 | (正攻法) | ケンペ | バルビローリ マルティノン | コンドラシン | 渡邉 |
(特化型) | C.クライバー | スヴェトラーノフ | チェリビダッケ | ||
上級 | ラインスドルフ | ムラヴィンスキー | |||
E.ヨッフム | C.デイヴィス プラッソン | フェドセーエフ ロストロポーヴィチ | |||
スウィトナー マズア | N.ヤルヴィ K.ザンデルリンク | バーンスタイン | |||
ライトナー クナッパーツブッシュ | ヒコックス | ロジェストヴェンスキー | |||
中級 | テンシュテット | ポリャンスキー | アバド 山岡 | ||
カイルベルト | P.ダニエル | M.ヤンソンス ゴレンシテイン | ハイティンク 朝比奈 |
◇相当偏っている上に、いくらでも抜けている大指揮者はいるだろう。しかし、20年近くクラシックを聴いてきて、私が続けて聴きたいと思う指揮者はこれらの人たちにほぼ限られる。その中でも、渡邉は最上級に位置づけられる。
◇惜しむらくは、今聴ける音盤のレパートリーが少ないことで、シベリウス以外のものが聴けるのならどんなものにも飛びつきそうな状態である。ちなみに、朝比奈隆も晩年の実演に接することができ、好きな指揮者ではあるのだが、今の気分としては、朝比奈隆のCD10枚と渡邉暁雄のCD1枚を交換してくれる交換所があったら喜んで朝比奈のCDを持っていきたいとさえ思う(ワーグナーの「指環」全曲とマーラーの後期交響曲は取っておくとして。なお、朝比奈隆・山田一雄・渡邉暁雄について言及したこのご意見を参照されたい。http://www.yung.jp/weblog/index.php?itemid=269)。
(古いリンクはどんどん切れてしまいますね…。代わりにyoutubeより、渡邉暁雄&日本フィルのトゥオネラの白鳥(1968年)、山田一雄&日本交響楽団(1949年!!)の「千人の交響曲」、同&NHK交響楽団(1985年)のマーラー交響曲第5番の映像を)
(この部分、2011年1月12日追記)
◇ちなみにコンドラシンは、先日ショスタコーヴィチで辛めの評価をした(【4】コンドラシン指揮モスクワフィルハーモニー管弦楽団★★☆ - ピョートル4世の<孫の手>雑評)が、ラヴェルやマーラー、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフの演奏は素晴らしい。
◇逆に、私がほぼ完全に拒絶する指揮者としては、以下の人たちがいる。カラヤン(新ウィーン学派の管弦楽曲集は除く。これは代替できる盤がない)、ムーティ、ブーレーズ、メータなどである。先日、渡邉のCDを確保しに、タワーレコードを訪れた際に、「異常に神経を逆撫でする極めて不愉快な音楽」が耳に入ってゾクッとしたのだが、見上げてNOW PLAYINGのテレビ画面を確認すると、カラヤン指揮のチャイコフスキーの交響曲第5番のフィナーレ(EMI盤)だった。思わずレジで、渡邉のマーラーを精算しながら、店員に「カラヤンって本当に合わないねえ」と言ったら苦笑していた。