【3】 「政権選択」後に向けて(混乱か成熟か、二大政党制か一党長期政権制か)

◇仮に、情勢報道のような結果が出るとして、絶対安定多数269議席を超えた場合、もはやそれ以上の議席数は(3分の2の320議席ラインを除けば)あまり大きな意味を持たない。むしろ、新人議員の多さや秘書不足などの不安定要素が増すと言えるかもしれない。そして、むろん選挙の結果以上に、選挙後の政権運営が今後の焦点であるのは間違いない。
◇以下、やや観念論(理想論・精神論=(ア)イデアリズム)的な議論になるが、当ブログには現実論(リアリズム)偏重の風潮に対して異議を唱えているようなところもあるので、好きに書いておく。
◇8/24放送の『報道ステーション』で、興味深い世論調査結果が紹介された。ごく一般的な、内閣・政党支持率や投票先、個別問題への賛否に加えて、イメージに当てはまる政党を訊いており、その結果から今後の政治体制を読み取る手がかりが得られそうだ。
http://www.tv-asahi.co.jp/hst/poll/200908_2/index.html
◇自民/民主に注目して結果をまとめる(順序・表現を変更した)と、以下のようになる。

A「日本経済を一番成長させる政党」:自民26.3%/民主15.5%
B「日本の安全を守るのに一番頼りになる政党」:自民42.1%/民主9.3%
C「行政のムダ削減に最も真剣な政党」:民主44.4%/自民7.0%
D「官僚に対して、政治指導力を一番発揮できる政党」:民主党30.8%/自民23.3%
E「国民生活に一番手厚い支援を打ち出している政党」:民主32.3%/自民11.3%

この結果によるならば、民主党への政権交代という民意が示したとしても、それはC・Dの改革志向とEの再配分への切実な希求に由来するものである、ということが言える。これは、前回のエントリで、私の「えらぼーと」結果で示されたのと全く同型の結果である。
◇このうち、C・Dの改革志向については、私が小泉政権を支持していた理由と重なるが、2005年の郵政選挙で小泉自民が圧勝したのもこの理由によるものと推測される。また、安倍・麻生政権期に自民党が国民の支持を失った理由もこのC・Dの改革志向を後退させたことによるものだと考えられる。
◇それに対して、A・Bの経済成長や安全保障については、依然自民党が「第1党」の立場を占めているわけである。この分野では民主党に対する信頼感はまだまだ薄いものであると言わざるをえない。
◇こうしてみると、自民党民主党との間で、下記の役割分担がはっきりとイメージされつつある。

自民党:経済成長(A)、安全保障(B)
民主党:医療・介護・福祉(E)、改革志向(C・D)

このうち、民主党のC・Dの改革志向(≒財政規律回復)と医療・介護・福祉重視(≒財政負担拡大)について、捩れがあるわけだが、それ以外は英米的な「二大政党制」のイメージに近づいている。
◇つまり、

共和党:市場重視、タカ派
民主党:再配分重視、ハト派

の日本版ということになる。
◇もっともこれは、民主党が旧自民党田中派(再配分重視派)の後継だと考えれば、

福田派(清和会)→小泉:市場重視、タカ派
田中派経世会)→小沢:再配分重視、ハト派

の焼き直しだとも言えるわけである。
◇今回の政権選択の焦点としては、小泉改革後の「社会の再構築」であり、先のE論点が国民の最大の関心事となっている。しかし、今後国際情勢が2000年代前半のように緊張することがあれば、その時はまた、Bの論点が前景にでることもありうる。また、福祉政策が一定の安定を得れば、一方でそれを支える経済成長のためのAの論点が再び重視される場合もある。
自民党長期政権内の福田派/田中派交代が、2つの政党に分かれ、また国内・国外情勢により、上記の論点交代がおこるとすれば、今後数年〜10年単位で政権交代が起こる英米図式が定着する可能性がなくはない。
◇しかし、一方で個人的な感覚では、旧来の「自民党的なもの」は、今後の民主党の中に再現されそうな予感がある。そもそも私は、自民党からの「政権交代」を少なくとも1989年ころから待望していたが、その実現後の政党のあり方のイメージとしては、小選挙区制を取ったとしても「第2の自民党」的なものができるのではないかと想像していた。
◇今回の選挙結果の後、自民党がどれだけ再起できるのか、民主党内の多様なグループがどのように動くのか、などの変数によって、今後の中長期的な推移は変わってくるだろう。
◇そして、むろん、交代後の政権成立の手続きがスムーズに進むのかどうかという当面の状況が、今後の政治体制を占う第一歩である。選挙結果がどのようなものであれ、国民の多数の支持を得た政権が期待に応え、山積する政策課題に集中的に取り組める状況になることを切望する。その際には、違う意見を持つ側にも、是々非々のフェアな態度で対応されることを望む。そうした道筋でこそ、私たち日本国民の再統合、社会の再構築の歩みが進むことになるものと考えている。
(補足)
◇現今の「社会の再構築」の課題については、本田由紀氏などの論考を参照。
東浩紀北田暁大『思想地図vol.2 特集・ジェネレーション』(NHKブックス別巻)
芹沢一也ほか『日本を変える「知」』(光文社SYNODOS READINGS)
NHKブックス別巻 思想地図 vol.2 特集・ジェネレーション
日本を変える「知」 (SYNODOS READINGS)
◇また、高度成長期後の「社会再構築」について、私は日本の近世思想史から、成長領域を見失った享保期以後に自己の依って立つ基盤を体得することを論じた石田梅岩の性理学(後の石門心学)を参照している。これについて、また、議論の前提となる基礎的な情報を整理しておきたいと思う。