オーケストラ・ダスビダーニャ第13回定期演奏会の感想

◇行ってきました。以下、アンケート用紙に書いた感想を再構成したもの。

劇音楽「ハムレット(ガムリェート)」による組曲Op32a

(まず前提として解説:『ハムレット』は普通に、デンマーク王子の運命を描いたシェークスピア作品でいいのだが、ショスタコーヴィチが1931年に音楽を付けたのは、ニコラーイ・アキーモフ演出の、「陽気な酔っ払いで権力欲に取り憑かれたハムレット」「飲み過ぎで溺れ死ぬオフィーリア」「レーニンそっくりのポローニアス」が登場する、アヴァンギャルドな舞台作品。ショスタコは他に、シリアスな名作、グレゴリー・コージンツェフ監督の映画『ハムレット』の音楽を1964年に作曲しているので、ややこしい。音楽内容も当然、前者はコミカル、後者はシリアスである)
◇ロジェストヴェンスキー盤では途中で退屈してしまう曲が、ダスビではこの緊迫感。マエストロ長田(おさだ)の徹底した「刻み」と「揺らし」に楽団員が見事に応えている(各パートソロのキャラの立ち方が凄い)。特に第4曲「狩」から第11曲「レクイエム」にかけての流れは、文字通り手に汗握るものだった。「組曲」をここまで濃やかに聴かせるオケが、今他にあるだろうか?
◇バレエ組曲「黄金時代」(第10回定期)、映画『馬虻』の音楽による組曲(第11回定期)、劇伴オーケストラのための組曲(第12回定期)と、毎年演奏を聴いた後1年間ジリジリと決定盤を待つことになったが(ダスビ定期では、前年の演奏のCDを販売している。他の演奏ではどうせ満足できないので、買える物があっても買わない)、今年もヤラレた。
組曲Op32aの存在感を決定的に高めてくれた名演。1曲目から叫べなかったが、心の中で「ブラヴォー」。

ピアノ協奏曲第2番Op102(独奏:ミハイル・カンディンスキー

(ピアノのカンディンスキーは、著名な画家と同族で、あのエリソ・ヴィルサラーゼ門下。曲は、ショスタコが愛息マキシムにプレゼントした楽しい曲)
◇第1楽章は、思ったよりどっしりした表現で、むしろプロコフィエフを思わせる。第2楽章は、つい普通に癒されそうになってしまう美しさ。第3楽章はやはりノリノリだった。
◇アンコール(曲目を確認しなかったが、たぶん、ピアノ音楽の名作「前奏曲とフーガ」Op87より第17番変イ長調)でも思ったが、「カン様」(と呼ばれているらしい?)のピアノは、とにかく滑らかでコクがある(どちらかと言えば、独奏のほうが良い)。

交響曲第8番Op65

(曲については、前回少し触れた。「ショスタコーヴィチは「反体制のヒーロー」扱いされているか? - ピョートル4世の<孫の手>雑評」)
◇私の場合この曲は、むしろ第7番「レニングラード」よりもずっと早く(タワーレコード旧新宿店で試聴した)ザンデルリンク盤の冒頭の重低音に衝撃を受けて以来好きで、ディスクの上ではムラヴィンスキーロストロポーヴィチフェドセーエフ盤などを何度となく聴き込んできた。しかし、この実演に接して、この曲の空恐ろしさを初めて本当に味わったような気がする。
◇第1、2、3楽章までは、昨年の交響曲第1番で完成の域に達した、長田&ダスビの引き締まった解釈が切り拓く、この曲の新生面に心奪われていた。実に厳しい「刻み」による切れ味鋭い演奏で、繰り返すがプロのオケより先鋭的だと言っていい。山が動くようにオーケストラ全体がうねる巨大な強奏と、本当に消え入りそうな弱音との対比は、今までの定期演奏会でも一番の聴き所だったが、曲自体がその両極に振れるこの作品では殊に効果的だった。
◇しかし、第4楽章のパッサカリアの執拗な反復辺りから、聴いている私に物凄い重圧がかかり始める。第5楽章のフィナーレに入っても、それが何なのか、訳が分からないままに圧倒され、実に寂けき終結に辿り着く頃には、何だか泣けてきた。不思議な体験である。
◇この間、途中から「曲の構造」や「音の響き」などは全く頭に入ってこなかった。いわゆる「感動」をしたわけでもない。ただ、何かが滲みてきた感じだ。これが何なのか、また1年後のCDを待って考えてみようと思った。
◇今までの、共感できる交響曲とは違い、むしろ今回はショスタコーヴィチから厳しく拒絶されたような気がした。(全曲が機械的無窮動状態の)12番より、(前衛的大爆発の)4番より、(金管倍増の巨大な力感の)7番よりも、この第8番を聴くのに労力が要った。何度も聴いているはずなのに、危うくついていけなくなるようなところがあった。
◇他の人がどう受け止めたかとも思ったが、終演後の拍手はダスビ定期の中でも最も長かったのではないか(軽く5分以上?)。ロビーでアンケートを熱心に書く人の姿も目立った。「今回は空席があったね」「第8番に恐れをなしてこなかった人もいるんじゃないの?」という会話が聞こえてきた。凄い曲、凄い演奏会だったとしか言いようがない。
【補足】
◇ちゃんとオケを知ってる方の、もっと分かりやすく書かれた感想を発見。こちらの「http://d.hatena.ne.jp/tatsumidou/20060219」。ピアノ協奏曲について、全く同感。8番の様子もよく伝わってくる。
◇さらに探してみた。やはり共通するところ多し。
長田雅人/オーケストラ・ダスビダーニャ 第13回定期演奏会 : 庭は夏の日ざかり」「ダスビの演奏会聴いてきました - きくぞう研究室第三実験室
◇こちらにはファゴットの方が。
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