「没後400年特別展 長谷川等伯」での体験

◇会期も短いので取り急ぎ書いておくが、先日「没後400年特別展 長谷川等伯」に行ってきた(東京国立博物館・平成館にて、3/22まで)。この10年ほど、雪舟琳派円山応挙横山大観川端龍子*1加山又造など、日本画系の大型展には、割合マメに出かけていたのだが、その掉尾を飾るような素晴らしい展覧会だった。
◇中盤に置かれた、金地に緑が鮮やかでデザイン的な完成に達している「萩芒(すすき)図屏風」を見た段階でゾクッと来たのだが、最後の「松林図屏風」を見た瞬間には、総身を薫香に洗われたような感動が走った。近づいたりあるいは図版にしたりしてしまえば、何と言うことのない墨の線に見えるものが、5メートルほど離れた位置からは、正に霧煙る中に見え隠れする松林の情景となる、という奇蹟的な作品である。
◇音楽においては、心身を震わすほどの感動を何度となく味わっているが、絵画によってそれに匹敵するような感銘を受けたのは初めての経験だった。たまたますれ違った年配の白人女性が日本語で「鳥肌〜」と漏らしていたが、正に「国宝」である。こうした美的達成の伝統のある国に生まれたのは誇ってよいと思う(それを「美しい国」などと言い換えると、なぜあそこまで陳腐でバカげたものになるのかはまた不思議なところだが)。
◇また、今回の展示は、照明が秀逸であり、作品の美質を十分に引き出している。作品保護のために、間接照明とはいえいかにも暗い…といった場合もあるのだが、今回の展示は実に適度な明るさで、殊に水墨画は描かれた情景が映像のように浮かび上がってくる、という環境を実現している(その代わりなのか、会期はとても短い25日間)。
◇これらに加えて、高さ10メートルになんなんとする巨大画「仏涅槃図」などもあり、特に日本画など見たことがないという人でも、1,500円出す価値は十分にあると思われる。とにかくこの質感は現物で体験するよりほかにないので、お勧めしておきたい。