人名漢字間違い続報と「命名」の重さ

◇「電子政府の総合窓口」ページの人名漢字間違いは計144字(話題にはならなかったのに翌日朝刊でフォローする毎日新聞は少し偉い。)結局、法令検索サイトの約7000の全法令を確認するそうだ。
◇なぜこれをわざわざ話題にしたかを少し補足したい。「人の名前」というのは、普通に考えられているよりとても重要だ。「名は体を表わす」「名は命より重い」ともいう。冗談ではなく「名」は単なる命よりも重い、というのが古今東西を問わず伝統的な発想であると私は思っている。
福田和也*1の生命至上主義批判にも通ずるかもしれないが、単なる「生命が大事だ」という言い方は根本的に誤っている。それは事実でもないし、言い方としても矛盾している。事実として言うなら、日々私たちは無数の生命の犠牲の上に自分の生命を成り立たせている。一日にどれだけの動植物の生命を奪って食べているか。これは飛躍ではない。生命というなら、現象として人間も生物も何の変わりもない。これを生半可に理解すると、「なぜ人を殺してはいけないのか」という例の愚問にたどり着く。
◇では「なぜ人を殺してはいけないのか」。それは人には「名」があるからである。あるいはもう少し丁寧に言えば、人には「名に象徴されるような何か」があるからである。それは「命名」の時に各人に宿る。というよりは、各人は「名づけ」によって初めて、単なる母胎から生じた生命現象(=肉の塊)から「人間」になる。こんな話は構造主義を待つものではなく、日本では江戸期の心学者が気づいていたことだ。
◇結局、こうした「名」を軽視する態度が、人命軽視の根にあるものではないか。107人の死者だって、単に数だけ数えたのではその重みは全くない。1つの「名」の重さを考えたときに初めて、私たちはまっとうな社会に暮らすことができるようになるのではないか。
◇こういったことは近くは、養老孟司が『養老孟司の<逆さメガネ>*2や季刊誌『考える人』連載の「万物流転」などで書いていることでもある。ベストセラーの書き手には胡散臭さや反発を感じる人もいるが(私がそうだった)養老氏の著作は熟読玩味すべきだろう。
◇私のより楽しく読めそうなのはこちら→http://atsupeugeot.seesaa.net/article/3635410.html
◇朝日が毎日を読んで後追いした?(ほとんどそのままだけど、逆か? 紙面がないのでどちらが先か不明)記事はこちら→
http://www.asahi.com/national/update/0512/TKY200505120301.html?t1

*1:例えば、「そんなに生命は大事なのか」〜『なぜ日本人はかくも幼稚になったのかなぜ日本人はかくも幼稚になったのか (ハルキ文庫)

*2:養老孟司の“逆さメガネ” (PHP新書)