岡倉天心展の雑感

◇始まってから大分経つが、神宮前のワタリウム美術館で開催中の「岡倉天心展・日本文化と世界戦略」に行ってきた(6/26まで開催)。ここは、普段は私立の現代美術の専門館ということだが、一方で7年前から、近代に日本美術の伝統美の再発見を支え、それを世界に発信した岡倉天心の研究会を開催し続けてきた(偉い!)そうで、これはその成果を集大成した展覧会になる。天心が東京から出て移住した茨城県五浦の「六角堂」を磯崎新らが参加して再現したのでも話題になった。http://www.watarium.co.jp/museumcontents.html
◇主な展示物は、平櫛田中作の岡倉天心像、天心愛用の品数点、天心自身の画数点、手紙やそこに載せられた漢詩、天心が中国日本部長を務めたボストン美術館の資料、天心の英語著作の初版本、天心と交流のあった作家の作品である。やはり基本的には資料展なので、地味である。垂れ幕解説がたくさんあって、写真と説明文を読むと、天心の美術を武器にした、日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国・インドを股に掛けた活動の足跡が、当時(ほぼ100年前)の雰囲気と合わせてよく分かった。1時間くらいで、天心の生涯を一通り勉強するにはいいだろう(毎日16時から館内説明をしてくれるらしい)。
◇ただ、元が現代的な空間のせいか、私の肌にはあまり合わなかった。「新・六角堂」の畳表が近所のホームセンターで売っていた畳ラグそっくりだったのはともかく(作るだけ偉い)、館内ではあまり「美」を感じることはできず、終わった後、東京体育館脇で坐って見た雨上がりの青い空と白い雲の美しさ(平凡)が、今日見た一番美しいものだった。
◇残念ながら図録がまだ出ていなかったが、研究会の成果(講演など)をまとめた『ワタリウム美術館の岡倉天心・研究会*1という本があった。予算の都合上私は買わなかったが、坂部恵が「ヨーロッパの哲学史では、ノヴァーリスなども扱われているのだから、岡倉天心萩原朔太郎なども哲学者として扱われてよい(西田幾多郎一派だけやっててもダメ)」というのには賛成。
宮台真司の『亜細亜主義の顛末に学べ*2とは少しずれるかもしれないが、当ブログのテーマである?文化戦略の問題を考える上で重要な思想家であるのは間違いない。研究会にも参加した大久保喬樹による『新訳・茶の本*3(解説・伝記もついた格好の入門書)と大岡信による評伝『岡倉天心』を買ってあるが、例によって読んでいない。それが一番の問題かもしれない。

*1:ワタリウム美術館の岡倉天心・研究会

*2:亜細亜主義の顛末に学べ―宮台真司の反グローバライゼーション・ガイダンス

*3:新訳・茶の本―ビギナーズ日本の思想 (角川ソフィア文庫)