谷川俊太郎「詩を書く楽しさ」
◇「著書を語る」枠の記事で、4月に出た詩集『シャガールと木の葉』*1に関連しての短いエセー。掲載されているのは、ジュンク堂書店発行のPR誌『書標 ほんのしるべ』6月号(初めて見た…。たまたま昨日大宮店で)。5日に出たようだが、あまりに地味な媒体なので、ここで紹介しておきたい。(なお、この詩集はまだ私も入手していないが、内容的には間違いなく優れたもののはずなので例外的に紹介しておく。)
◇さりげない文章だが、この人にして、冒頭から「詩を書くのがなんだか楽しくなってきている」と書かれると凄みを感じる。時代の変化もあり、「肩の力が抜けた」。「現代詩」を書くぞという意気込みも、良くも悪くも薄れた。大岡信・入沢康夫・吉増剛造・伊藤比呂美・荒川洋治の代表的詩集が出た際に「事件」と感じられるような時代は終わった。…などと短くも的確な振り返りで、時代の変化を語る。
◇掲載された写真を見ても、失礼ながら「老詩人」と言われかねない風貌になりつつあるようだ。しかし、この人が20歳のころから貫いてきた立場が強調されて、この文章は締めくくられる。
…いまここで現実に生活している自分の感じ方、考え方をどう他者に伝えるということが、詩の言語そのものへの関心とともに、私の作の基調になっていると思う。/時代から逃れることはできないが、同時に時代を超えたものに触れたい、不幸と不安は世界に満ちているが、それでも存在することをやめない喜びと幸せを、それがどんなに微力なものであれ他者と分かち合いたい、そんな願いは以前よりもっと強まっている。
この詩人のブレのないしっかりとした歩みに、私は10代の終わり以来たびたび勇気づけられてきた。どころか、谷川さんの詩と試論がなければ、私はもうここにいなかったかもしれない。
◇もし、まだ読んだことのない人がいれば、各種文庫の選詩集をお勧めする。例えば、『空の青さを見つめていると』*2と『朝のかたち』*3。これは、日本の詩なんて読んだことないという人にこそ、ぜひ手にとって欲しい本。私が一番好きなのは『62のソネット』*4(本当は、確か初期作品の「全集」(『谷川俊太郎詩集』*5)に収められたソネット補遺や、以前、前橋文学館の展覧会で見た、ノートに書かれたままで未活字化のソネットも一冊にまとめて、幻の「100のソネット」を実現して欲しいくらいだが…。後者は当時会場で勝手にメモした憶えがあるなあ)。
◇なお、谷川俊太郎の詩論については、以前枡野浩一さんにお相手していただいた際にも少し書きました。枡野浩一氏の職業歌人論に答えて - ピョートル4世の<孫の手>雑評。