【3】 渡邉暁雄のシベリウス:交響曲全集(1981年)(デンオン)

◇全集についても、いつのまにかこんなに手に入りやすいかたちでリリースされていたとは。昨年7月に再発のデンオンCOCQ-84283~6。4CDでわずか3,675円!*1デンオン(コロンビア)さんありがとう(最近マタチッチのシリーズが出たが、渡邉暁雄もシリーズ化して出してくれないだろうか。1999年〜2000年にビゼーモーツァルトなどが出ていたようなので、ぜひ復活してほしい…)。
◇さてもう、この全集は夢中になって一気に、第5、4、3、6、7、1、2番の順で聴いていったのだが、最後にたどり着いた第2番のフィナーレでは、法悦の中で「神よ、この出会いに感謝します」と祈りを捧げずにいられない気持ちだった。単純に、もっとすっきりした、勢いのある、聴き栄えする演奏は他にもあると思うが、音楽を聴くという行為が、鳴っている音を耳に楽しむということだけでなく、(2500年ほど前に孔子が定義したように)ある種の人間性の真実に触れる行為だとする*2ならば、これ以上の演奏はありえない。最高のシベリウス交響曲全集であり、渡邉は私が知る最上級の指揮者のうちの1人である。
◇なお、この全集は解説のリーフレットがまた大変充実している(全36頁)。渡邉の人物像に迫る紹介と年譜に加えて、大部分を占める楽曲解説が実に詳細。菅野浩和氏によるそれは、曲の流れに寄り添いすべての楽句をなぞって記述したくらいに精細に書かれている。これは、第4番・第7番のような、玄人筋の評価が高いが、あまりに独自の形式によるので何度聴いても正体を捉えにくい激シブ曲を理解するのに格好の材料である。特に、第4番については、たっぷり2段組4頁を使って詳述しているので、これならこの曲の魅力も伝わりやすい。前述したような音響機器があるならば、この全集は何を置いても買う価値があるだろう。

*1:シベリウス:交響曲全集交響曲全集 渡邉曉雄&日本フィル(4CD) : シベリウス(1865-1957) | HMV&BOOKS online - COCQ-84283/6」には、試聴サンプルがある。

*2:「子曰く、詩に興り、礼に立ち、楽に成る」『論語』泰伯8。この一節については、確か今道友信『美について』に記述があったはずだ。もっとも今道氏は美学的観点から、「レコードで藝術を云々することの愚」を説いておられた方だが。美について (講談社現代新書)